fou you 後篇
あ、あいつが言ってたのは…その、キキキきっ、スを……、俺に、あいつにキスをしろって……
………っ!!!
「無理に決まってんだろ?!!!」
俺は半ば泣きそうな顔で一人、ゼロライナーの中で叫んでいた。
まぁ、デネブが買い物でいないから叫ぶ分には問題ないか。
なんてあいつの事を考えると瞬く間に先ほどの事を思い出す。
あのカメ…何で俺がデネブに…。
てゆーかアイツは何考えてるんだ?
キスなんて、別に貰ったって嬉しくない、俺は。
確かに金に代えられないけど。
「そんなもんで本当に喜ばれるのかよ……」
さっきまでは混乱していて、思考回路が回ってなかったけど、
深く考えてみれば不可能なわけじゃない。俺次第。
「侑斗~!!!ただいまぁ~!!今日はお得な買い物だったぞ~!!!」
「おっわぁあぁぁああ?!!」
いろいろと頭を使っていたら急に明るい声。
その主は勿論デネブ。
「侑斗も一緒に行けば良かったのに~。」
のん気な声を出して、やっぱり俺の気を知らない様子。
「おまえ、椎茸かってないだろうなっ?」
どうせこいつの事だから買ってきてるだろうな。
………駄目だ。
どうにかして『キス』の事を忘れようとするもやっぱり頭はそっちばっかり行く。
デネブを見れば見る程頭に血が昇る。
「今夕飯作るからなっ!」
「あ、あぁ。」
ほらな、裏返る声。直視出来ずに逸らしてしまう視線。
それを不思議そうに見るデネブの目が気になる。
もっとも、気になっているからと言って声には出せない。
「侑斗…?」
「べ、別になんでもないぞっ!なんでも…っ!」
「…?」
俺の事を気に掛けながらも晩飯を作りに行くデネブ。
その後ろ姿が、「お母さん」…と言うよりも今は「奥さん」にしか見えない。
やっぱりデネブは母の日の事については何も触れなかった。
まぁ、自分が母親代わりと思ってはいないだろう。
周りから見ての話だ。
そっと窓から外を見れば砂だらけの世界。
どこまでも続く砂原は殺風景と言えばそう思う。
その砂の一つひとつが今流れる時間。
ふと思い出す。
いつまでもこうしていられない事を。
デネブはイマジンであり、同類であるイマジンと戦っている。
もし、俺と電王でカイ率いるイマジンを倒せたとしても、同じデネブ達は…。
「ぼーくちゃん」
「?!!」
聞き覚えのある声。このクセのある声は…
「野上のイマジン?!」
青いのと紫の、赤いのも黄色いのも全員揃ってなんだってんだ。
「大丈夫なのかよ、こんな所まで来て。」
「別に俺は来る必要ねぇって言ったんだけどよ。」
亀公がどうしてもって言うからな。
そう言って腕組をする赤鬼。
「で、なんだよ。」
「僕ちゃんさぁ、僕は別にキスを贈れなんて一言も言ってないよ?」
「………は?」
「別にさ、キスをする事に執着しなくて良いんだよ。」
何を言いたいのか。じれったい程はっきり言わない奴だな…。
てゆーか…
「誰がキスに執着してるって?!!!」
「あ。」
俺が大声出した瞬間に4人の口が開く。一斉に出た言葉は「あ」の一言だけ。
なんだよ、何がおかしいんだよ。
クスクスと笑うカメにそう殴りかかりたい位だ。
とふざけつつ本当になんだと言うのだ。
「侑斗~?誰か来てるのかー?」
「!!」
デネブが俺の大声に気付くって事かよ!!早く言えよ!もう遅いけど!!
まぁそうやって俺がおどおどしてる間に割烹着を着たデネブがやって来て。
「おぉ!!モモタロス達か!良かったなあ侑斗~!まぁこんな所でも良かったらゆっくりして行ってくれ!」
そう言いながらデネブキャンディーを渡しまくる。
長く繊細な髪、すらっとしたスタイルに整った顔。それから、輝かしい笑顔。
それをこいつらに撒き散らす。
あ、れ…?
今、イラって…。なんかムカつく…?
そう思った頃には体は勝手に動いていた。
「ん?なんだよ。…あっ!ちょ、待てやめ」
契約前の砂状態に向かって蹴りを入れる。
途端にハラハラと儚く崩れ落ちる体。全て消えて静かになった車内。
無言で立ち竦んでいるデネブの方へ体を向ける。
「侑斗…、やっぱ、り…今日はおかしいぞ?何か、あった…?」
長く繊細な髪、すらっとしたスタイルに整った顔。それから、
酷く怯えた顔。
何で、俺にはそんな顔しか…
一歩一歩デネブの方へ近付く。
すると1枚の紙がテーブルの上に置いてあった。
そこには大人っぽい綺麗な字。
『やっぱりね、こうなると思ってたよ。だからこの紙で伝えるよ。僕はあの時リュウタにキスをしたいからキスしたんだよ?
それをリュウタは嫌がった?まぁあの場でやった事は嫌がってたけど。自分がされて嬉しくない事はしちゃダメだけど…自分が思うままに進んでみるのも』
悪くないと思うよ?
byウラタロス
内容にはそんな事が。
何もかも予想の範囲内らしく、置き手紙を置いて行ったのだろう。
俺の思うまま…。
俺がされて嫌じゃ無い事…。
俺の思うままに進む、……………。
「………ごめ…ん……驚かせてごめん…」
まずは謝らないと。急に乱暴したから。怯えてるから。驚かせたから。
それから……
「……ん……」
触れるだけのキス。
静かに漏れたデネブの声は、とても透き通っていて鳥肌が立つかと思った位。
やっと俺の行動に気が付いたのか、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「デネブ?」
「ゆ…と…」
その無防備な唇に、目に、耳に、髪に、デネブのすべてに。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
なぁ、これで良いのか?
俺がしたかったからした。
俺の思うまま、まっすぐ進んでみた。
しかしデネブの反応は俯くだけ。
何一つものを言わずただただ俯くだけ。
「わ、悪いっ…!」
咄嗟に謝ろうとした途端俺の方へ顔を上げるデネブ。
ああ本当だ。本当にこれで良かったんだな…。
だって見てみろよ?ほら、
「えっへへ……!」
長く繊細な髪、すらっとしたスタイルに整った顔。それから、
「侑斗、嬉しいぞっ!!」
満面の笑み。
for you~貴女へ贈る...END
全国のお母様、貴女へこの小説を贈ります。PR