
My style~4
「クマちゃんっ…?!!クマちゃぁぁあああんっ!!!!」
リュウタの叫び声。キンちゃんはこの電車に乗っていない。
先輩も珍しく一言も発していない。
沈黙の中には不穏な空気が流れている。
絡まった細い糸はなかなか解けない。
それ故に刃物か何かでちぎらなければ取れない。
その時、決して元通りには戻らない。二つに分かれて、そのまま。
1つに戻る事は一生無いだろう。
仮にテープで1つに繋げたとしても、その関係はあまりにも弱すぎる。
僕達も同じなのかもしれない。
細い糸で絡まってしまった関係は、なかなか解けない。
でも、誰かが仕掛ければそれはモノの見事にそれは途切れる。
「クマちゃん……」
切なそうにそう彼の名を呼ぶリュウタに胸がちくりと痛む。
もう、目を逸らすつもりなのに。
僕の中の感情は、僕の物のはずなのに聞く耳を持たない。
ただ、体の方は言う事を聞くので理性は保っていられる。…今のところ。
「……うるせぇよ小僧。」
未だ泣き叫んでいるリュウタに向かって先輩が冷たく突き放す。
うるさいよ、モモタロスは黙っててよ。
お決まりのセリフを言っても、誰も何も言わない。
いつもなら「何で俺だけ呼び捨てなんだよ?!」と言って煩く怒りだす先輩さえも今は無言。
リュウタの声が恐ろしい位震えていたから。
「あ、あのっ!」
ナオミちゃんの明るく甲高い声が車内に響いて全員がそちらを向く。
「こんな時こそ盛大に騒ぎましょうよっ!!」
その声には明るく陽気な反面、今にも泣きだしそうな己を大きな声で吐き出している様にも見えた。
それに気づいたのは僕だけじゃなく、普段鈍感な先輩さえも気づいたようだ。
沈黙に耐え切れなかった僕は、ナオミちゃんに優しく囁く。
「ナオミちゃん、無理しなくても良いんだよ。泣きたい時は…泣けばいいんだ。」
あの子みたいにね。
そう言って泣き叫ぶあの子を指差す。
「…………変ですよね、イマジンなんて私達と一緒に居ること自体、おかしいのに。」
泣き出すかと思いきや、芯の強いナオミちゃんはそう切り出した。
誰もがその言葉に耳を貸す。
「りょうたろちゃんにとっても敵でしか無いはずなのに。あ、お姉さんの事に関係あるかもですけど。」
確かに、僕達がここにいれるのは良太郎のおかげ。ここにいる人達のおかげ。
「居なくなると、こんなに寂しいなんて。」
いつもは元気なナオミちゃんでさえ、こんな辛気臭い空気を読んでる。
『寂しい』。そんな言葉を一生で掛けられるなんて…一瞬息ができなかった。
お世辞ならいらない。でもこの子は嘘をついてない。
何よりの証拠には…ははっ、嘘吐きの僕が言ってるんだから。
「そこまで、私の日常に馴染んでたんですよ?今更いなくなるなんて、思えませんよー!」
最後の方まで行くと、自分に言い聞かせるように話していた。
日常に馴染んでいた。
そう言われれば僕らもそうで、ここデンライナーに居るのが当たり前。
先輩がそこら辺にいて、キンちゃんが鼾をかきながら寝てて…。良く先輩がキレてたな。
良太郎は、それを楽しそうに見ていて。ハナさんの鉄拳が飛ぶ。
カウンターではナオミちゃんがお得意のコーヒーを淹れてて。
オーナーはいつものあの席でチャーハンを慎重に食べている。
リュウタが、クレヨンを持って楽しそうにお絵かきしていた。
愛しそうな目をしていると思ったら、書き終えたようで僕の方へスキップしてくる。
「何?」なんてわざとらしく言って、リュウタが僕の絵を描いていた事に気付きながら。
「えへへ、はいっ!カメちゃんっ!!」
そう言って差し出してきた絵。楽しそうにダンスを踊っているリュウタの隣には、僕の姿。
それを見るだけで、微笑ましくて、愛しくて、何もかもが僕の物の様で。
懐かしいように思い出に浸るのは初めてだろうか。
こんな風に思うのは、きっと僕達の最期が来たから。
最初から無かったはずの日々だから、何も求めはしない。
1つだけ叶うのなら、最後はリュウタと居させて。
抱きしめて、キスをして、見つめ合って。
それでいいから、叶うことなら。
「居なくならないよ。いなくならない。だからそんな顔しないで?」
泣きやんだと思われるリュウタが今にも泣きそうなナオミちゃんへ話しかける。
それを見て、リュウタはあの時より、あの時より、どんな時よりずっとずっと強くなったんだと実感した。
もう一度触れたい、そう思った頃にはもう遅かったのかもしれない。
――――――ゴトン
多分、今の微かな音は扉に一番近い僕にしか聞こえなかっただろう。
デンバードが入っている部屋の方で音がした。
これで僕も、ここにおさらばかな…。
不思議と清々しいのは何故だろう?なんだか、今までの事が夢のようで。今まさに目が覚める時。
目だけで室内を見渡す。次々と思い出す想い出にはの多さに驚く。
普通の人間ならこんなこと、大したことでは無い…そう言った事さえ鮮明に覚えているので、僕がどれ程この居場所を好んでいたんだろう。
お別れするのは寂しいな…また、いつか会える日は、きっと僕が生まれ変わった日かな?
なんてね。
「……リュウタ」
そう言ってリュウタを連れて食堂車を降りる。連れ出した場所は、すぐそこの廊下。
壁に手を付けて、リュウタへ口付けを落す。
んっ………と漏れた色っぽい声に全身がビリビリと刺激される。
最期に、リュウタに全部を僕に刻ませてほしい。
そう思ってとった行動はあまりにも幼稚すぎた。
ただただ、リュウタを求めて抱きしめて。ねだるようにキスをして。
時折、この子の方からそれらをしてくる事に満足しながら「まだ足りない、まだ足りない」と続けた。
首筋を吸い上げると顔を背ける仕草がとてもきれいだと思う。
ウェーブのかかった紫のメッシュがふわりと揺れて、赤く火照った頬が何より美しい。
誰かに気づかれたとしても、そのまま僕はリュウタを求め続けた。
これで最後。僕の最期。
「リュウタ、僕に釣られてみる…?」
僕はちゃんと言えていただろうか。もし震えていたとしたら傑作だ。
さようなら、愛していたよ。
会えると良いかもね。
………いつか、未来で。
to be continued...